晩春の夜風に薫る記憶は 11
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第一章 五月の風に誘われて 11 ≫



「よかった……。ではやはり、今のは貴方がなさったのですね」


 微かに笑んで、手を差し伸べてくる。


「え?」


 意味不明の発言に、真人は伸べられた手を咄嗟に離し青年を訝しげに見やった。

視線を受けて、青年も怪訝そうに眉を顰(ひそ)める。


「もしや、何があったか、ご承知でない?」
「はあ」


 決まり悪げに鼻を掻くと、青年が微かに驚きの声を漏らした。


「貴方が瞳を閉ざした途端、突然風が起こったんです。まるで貴方を守るように、貴方の周りにだけ」
「はあ。いや、俺は別に」


 困惑しきった表情で答えると、青年が俯く。


「そうですか……」


 しばし考え込むような風情で軽く顎に手を添えた。


「あの、今の影はいったい?」


 ためらいがちに問いかけると、青年が我に返ったように目を瞬き、顔を上げた。

何かを訴えかけるように口を開き、噤(つぐ)む。


「申し訳ありません。それについては後ほど。今はともかく屋敷へ急ぎましょう」


 青年は瞳に沈痛な色を湛えたまま苦しげな笑みを浮かべると、再度手を差し出してきた。

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オープニング背景画像:ぺるみけさんによる写真ACからの写真