晩春の夜風に薫る記憶は 12
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第一章 五月の風に誘われて 12 ≫



 真人は釈然としない思いを抱きつつも、素直に青年の手を取る。

 白い手袋をはめたその手は、布越しに見るよりも一層小さく細く感じられた。

やはり青年と言うより、少年と言ったほうが確かだろうか。

そんなことを考えながら、ゆっくりと身を起こす。

と、何かがちりんという音とともに、膝から石畳へと滑り落ちた。


「え?」


 反射的に視線を足元へと向け、目を瞠った。


(これは……)


 それは自分の持ち物ではなかったが、確かに見覚えのある物だった。

立ち止まったまま、しばし凝視する。

だが、青年のほうは何も気がついていないのか、ここですよ、と
事もなげにそれを拾い上げ、手渡してくる。


「どうぞ」
「あ。いや、どうも」


 戸惑いつつ受け取ると、青年が軽く頷いて踵を返す。

そのまま前方へと歩き出す青年の後を追いながら、真人は受け取った物に目をやった。


(やっぱりそうだ)


 七色に輝く細身の腕輪。

手を動かす度にオーロラのように幾重も色を変えていく。

間違いなく、先刻再会したあの奇妙な老人の物だった。


(いったいいつの間に……?)


 投げかけた無言の問いに答えはなく。

少し前までは影も形もなかったはずの腕輪は、掌中でただ静かに、仄かな光を放ち続けていた。

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オープニング背景画像:ぺるみけさんによる写真ACからの写真