晩春の夜風に薫る記憶は 14
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第二章 おしゃなりさま 2 ≫



「こちらでしばしお待ちください」
「はい」


 真人は首肯し、六畳間へと入る。

襖なので鍵はかかっていないが、おいそれと外に出られなさそうな雰囲気だ。

つくづく面倒なことになった、と真人は髪を掻きむしる。

はっきり言って今すぐここから立ち去りたい。

だが、ここまで連れてきた白い奴らといいあの女性たちといい、
全力で抗ってもびくともしなかった。

その上、外にはあのよくわからない存在(もの)がいる。

どちらにしても危ないことに変わりないなら、おとなしく待っているほうがいい。


(訳がわからないまま殺されるよりずっとましだしな)


 結論づけ、とりあえず座っておこうと慣れない正座をする。

 どれくらい経ったのか。

痺れてきた足をむずむずと動かしていると、ふいに後ろの襖が開き長い黒髪の女性が現れた。


「お待たせしました」


 藤色の着物を着たその女性は、柔らかな微笑みを浮かべ廊下へと促してくる。

真人は足の痺れを悟られぬように立ち上がり、女性について廊下を歩いた。


「あの、先ほど俺を連れてきた人は今どこに?」


 沈黙が気まずくて問いかけると、女性が振り返り悪戯っぽく笑む。

耳元へ薄桃色の唇を寄せ、慌てるのをよそに囁いてきた。


「私ですよ」


 低められた声に真人は瞠目する。


「え? あれ? あ、さっきの!」


 肘に当たる胸の膨らみに息を呑み、耳へ手を当てる。

身を退かせながら、小さく叫んだ。

女性だったのか。

動揺していると、女性が居住まいを正しゆっくりと一礼してきた。


「春日野千代(かずがのちよ)と申します」
「はあ、どうも」


 咄嗟に返す言葉も思いつかず、真人は頭へ手をやり曖昧に頷いた。

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オープニング背景画像:ぺるみけさんによる写真ACからの写真