晩春の夜風に薫る記憶は 15
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第二章 おしゃなりさま 3 ≫



   二


 大広間では、白と黒の紋付袴に身を包んだ男性陣がずらりと並び、
真人たちを待ち構えていた。

真人は千代に倣い膝をつきながら、その最奥へ目をやる。

奥の一段高い所に、鼻の下へ立派な両髭を生やした初老の男性がいた。

礼を施(ほどこ)すと、男性の重々しい声が聞こえてくる。


「お待ちしておりました。巫女殿。今少し近くへおいでください」
「はい」


 真人は促すように見つめてくる千代を見やった後、首肯し立ち上がった。
千代に従い、最前列まで向かう。

整然と並ぶ男たちの脇には、あの白い装束が置かれていた。


(あれは彼らだったのか)


 どうりで力が強いはずだ。

半ば呆れながら改めて正座すると、壇上の男性が真摯な目で見つめてきた。


「私はこの村の長をしております、春日野吉隆(かすがのよしたか)と申します。
この千代は私の娘でしてな。何分奔放に育てましたため、
さぞご迷惑をおかけしたと思いますが、どうぞご容赦ください」


 突然頭を下げられて、真人は慌てる。


「いえ、たいしたことじゃありませんから。俺も道に迷っていたところでしたし」


 大仰に手を振りながら言い訳を試みると、吉隆が破顔した。


「さすがは『キヨメ様』がお選びになった巫女殿。これで千代も救われるやもしれぬ」


 しきりに頷く吉隆に、真人は片眉を上げる。


「その『キヨメ様』とはなんなんですか? あと『おしゃなりさま』って?」


 尋ねると、吉隆が表情を改めた。


「『おしゃなりさま』とはこの村で年に一度行われる神事の総称です。
また村の予言者様のことを『キヨメ様』とお呼びしておるのですよ」
「はあ」


 真面目な表情で語る吉隆へ、真人は曖昧に返答をする。


「じゃあ、俺はこれからその人に会わなくちゃならないわけですね」


 確認するように問うと、一斉に行為を制止しようとするどよめきが起こった。

真人は訳がわからず眉根を寄せる。吉隆が周囲を制し、千代へ目を向けた。

千代が父親へ頷くと、真剣な面持ちで見てくる。


「真人様。『キヨメ様』にお会いするのは無理なのです。特に夜は」


 危険ですから、と呟くように紡いだ言葉に、真人は眉間の皺を一層深める。

そんな視線を受けてか、千代が悲しげに吐息した。

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