晩春の夜風に薫る記憶は 17
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第二章 おしゃなりさま 5 ≫



「昔から、五月祭の巫女は、その年二十歳になる女性の役割でした。
けれど今から約三十年前、年頃の女性が次々と原因不明の病魔に侵され、
亡くなってしまうという事態が起こったのです。
困った村人たちが、女性の巫女の代わりに同じ年齢の男性を巫女へ仕立て儀式を執り行いました。
すると、病気による被害はぴたりと止んだのです。
しかしそれ以来、村の女性たちの中に『狂女』が現れるようになってしまいました」
「でも、『おしゃなりさま』の語源って、
もしかして歌にもある『しゃなりしゃなり』からきているんじゃないですか?」
「その通りです。『キヨメ様』が村人たちに害を為さないよう、
『しゃなりしゃなり』と着飾って、気取り歩きで女性を装い練り歩くため、
いつの頃からか『おしゃなりさま』と言うようになった、と言うのが今の定説です。
けれど一方で『おしゃなりさま』という神事は、百年以上前から執り行われてきた伝統行事だ、
とも謂(いわ)れているんです。
ですから、もともと着飾って歩いていたのは私たち女のほうなのでしょう」
「なら、祭りを本来の形に戻すわけにはいかないんですか? 案外元の形でやれば
『キヨメ様』も出なくなるかもしれませんよ?」
「それができればどんなにいいか」


 言葉を切り唇を噛み締める千代を、真人は信じられない心持ちで見つめる。

だが、凝視しているのも構わず、千代が三度口を開いた。

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オープニング背景画像:ぺるみけさんによる写真ACからの写真