晩春の夜風に薫る記憶は 18
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第二章 おしゃなりさま 6 ≫



「村人たちは『狂女』による被害を避けるため、
自らの性別を逆にして祭りを執り行うようになりました。それが今の……」
「『おしゃなりさま』なんですね?」


 言葉を継ぐと、千代が無言で頷く。


「申し訳ありません」


 深々と頭を垂れる千代に、真人はいや、とかぶりを振った。


「これは貴女のせいではないから」


 納得はできていない。

なぜ自分のような村とは無関係な人間が、巫女なんぞをやらなければならないのだろうか。

とはいえ、今の話を聞く限り、事はなかなかに複雑らしい。

腕を組み考え込んでいると、吉隆が重い口を開いた。


「貴方様のおっしゃりたいことはわかります。
だが、村の若者の中に、今年二十歳になる男性がいなかったのです。
年で言うならこの千代も巫女ですが、
この子は女であるが故に許可するわけには参らんのです。
さらには『キヨメ様』は『外から巫女がやってくる』とおっしゃられた。
理由は私どもにもわかりませんが、
間違いなく貴方様は『おしゃなりさま』の巫女なのです」


 重々しく断言され、真人は返事に窮する。

その目前に千代が歩み寄り、改めて深々と頭を下げてきた。


「申し訳ございません」

「いや、だから貴女の謝ることでは……」


 困り果て頭へ手をやりつつ応じていると、千代が悲しげに微笑んだ。


「今年の『キヨメ様』は私の母なんです」


 千代の言葉に、真人は今度こそ言うべき言葉を失った。

あまりの展開に押し黙っていると、

吉隆が『おしゃなりさま』についての詳しい説明を始める。


「もともと『おしゃなりさま』とは村の五月祭でした。
我が村の五月祭とは、いわゆる月の女神と海の神との婚姻の儀式で、
それを執り行うことにより舟の安全と海での実りが約束されるのです。
巫女はその祭りの主役なのですが。先ほどご説明した通り、
この五月祭には呪いがかけられているも同然ゆえ、千代にさせるわけにも参りません。
何より、今年の『キヨメ様』は我が妻、波津子(はつこ)なのです。
自分の妻が実の娘を殺すなど……」


 吉隆は小さく首を振り、そっと目頭を押さえる。

どうかよろしくお願いします、と頭を下げてくる一同を前に、真人は困り果てていた。

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