晩春の夜風に薫る記憶は 22
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第二章 おしゃなりさま 10 ≫



  四


 海岸に出るため、村の大通りを歩く。

道は夕べと同じように小さな正方形の石を敷き詰めたものだった。

所々磨り減り、ともすればつっかえてしまいそうな段差もあって、歩きにくい。

その上片隅に小さな水溜りを残しつつ細く折れ曲がっており、
なかなか海岸縁まで着くことはできなかった。


(雨の音なんて聞こえなかったけどな……)


 疲れていたからだろうか。顔をしかめながら歩みを進める。

 辺りを見回すと、軒の低い家々が目に入る。

どれも黒灰色の瓦屋根と白壁に統一されていた。

よく見ると扉の上側に合わせた格子型の模様が、
白黒のタイルで一直線に描かれており、どこか異国情緒を漂わせている。


「和風のような、欧風のような……?」


 不思議な村だ。しげしげと路地を眺めていると、千代が微笑んだ。


「そんなに珍しいですか?」
「え? あ、はい。なんていうか、普通の漁村とちょっと違うな、って」


 遠慮がちに感想を述べると、千代が瞳を丸くする。


「そうなんですか?」


 私はこの村から出たことがないもので、と微苦笑する千代がなんだか眩しい。

真人は咄嗟に視線を逸らし、続きを語る。


「他の漁村も低い屋根と屋根瓦は同じ感じなんですけどね」
「そうですか。……私も、行ってみたいわ」


 ためらいがちに呟かれた言葉に、真人は破顔する。


「行けますよ。良かったらその時は案内しますから」
「お優しいんですね、真人様って」
「そ、そうですか?」


 照れて鼻を掻いていると、何やら喧騒が聞こえてきた。

一つ前を読む   小説の部屋に戻る   次を読む





オープニング背景画像:ぺるみけさんによる写真ACからの写真