晩春の夜風に薫る記憶は 24
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第二章 おしゃなりさま 12 ≫



「綺麗だなあ」


 煉瓦でできた胸までの堤防から海を眺め、真人は呟く。

レトロな雰囲気の堤防の下には、よく見るテトラポットもきちんと設置されている。

斜め前方へ目をやると、無数の舟がひしめき合うように海辺へ浮かんでいた。


(木製なんだ。珍しいな……)


 どれもモノクロ写真でしか見たことがないような舟である。

真人は目をしばたたかせ、千代を振り仰いだ。


「昨日はずっと山奥の町なんだと思ってたんですよ」
「そうなんですか? まあ、確かにこの村は山に囲まれてもおりますけれど」
「はい。昨日はまったく気づかなくって。花粉症かな?」
「どこかお悪いんですか?」
「あはは」


 まさか花粉症という言葉で心底心配されてしまうとは思わなかった。

天然もここまでくると、苛つく気にもならない。

可愛い人だな、などと思いくすりと肩を揺らしていると、後方から声がかかった。


「やあ、昨晩はどうも」


 細身で小麦色の肌をした小柄な男が、人の良さそうな笑みを浮かべて前へ立つ。

 紺色の作務衣を着て、黒い短髪には鉢巻が巻かれていた。

海の男、というよりは、どこか職人然とした装いである。


「巫女役をお引き受けくださり本当にありがとうございます。
いや、まったくもってありがたい。
危険を冒して連れてきた甲斐があったってもんですよ」


 男はぐっと手を握ってきて、何度も頷いた。


(あ……)


 真人は目を見開く。握られた手の感触で、彼が何者かを悟った。

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オープニング背景画像:ぺるみけさんによる写真ACからの写真