晩春の夜風に薫る記憶は 26
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第二章 おしゃなりさま 14 ≫



 輝く瞳で信二と呼ばれた男を見上げる千代の姿に、知らず胸がざわめく。

硬くなった身体を和らげようと息をはいていると、
信二が笑みを抑え真剣な表情を向けてきた。


「真人様、よく聞いてくださいよ? 今から約五十年前の祭りは、
今とは少し違っていたんですよ。何が違うかってぇとですね」


 信二は一度言葉を切りひたと瞳を見据えてくる。


「最終日に崖の突端から二つの水晶玉を投げる儀式があるんですが。

昔は男女の赤ん坊を海に投げていたんですよ、実際にね」


 真人は絶句し、目を瞠った。


「なんでまた、そんな惨いことを……」


 絞り出すような声で問うと、信二がさあねぇ、と肩を竦める。


「そんなことよりも、ですよ。ある年の五月、村に男女の双子が生まれましてね。
当時の村長はその赤ん坊たちを祭りの供物にしようと提案し、
村の住人も賛成したんです。たった一人、赤ん坊の母親を除いては……」


 背筋に悪寒が走るのを感じた。

千代もその先を聞きたくないのか、じっと地面を見つめている。


「母親の抗議も虚しく、赤ん坊は当時の巫女の手によって海へ投げ込まれ、
母親はその後を追って身を投げたんですよ。
巫女と村の人間たちを呪いながら。それ以来なんです。
毎年五月が来ると四十歳になる村の女性が、夜狂ったように村を徘徊し、
人を殺めるようになったのは」


 信二が一息吐くと、千代は彼の言葉を継いで語り出した。

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