晩春の夜風に薫る記憶は 29
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第三章 夜祭り 2 ≫



「三日目、最後の晩は海岸にある高い崖の上で儀式を執り行います。
具体的には、先ほど信二さんのお話にもあった通り、二つの大きな水晶玉を崖の上から月に照らし、
月が雲に隠れる前に、海へ投げるというものです」


 説明をする千代の声が徐々に淡々としたものになっていく。

よほどこの儀式について心を痛めているのだろう。

かと言って、『キヨメ様』に追われる立場である自分には、
千代を慰めることさえ儘ならない。


「あの、その像っていうのは、なんなんですか?」


 しかたなく事務的な質問をすると、千代の声が少しばかり明るくなる。


「村にある道祖神のようなものです。新道、旧道の辻に合わせて十六ヶ所ございます」
「それって、あの男女の神様の?」


 道祖神と言えば穏やかな顔で寄り添う夫婦像を描いたものが一般的だろう。

そう思い問いかけるが、千代が否定する。


「いいえ、この村の道祖神はただの小さな丸い石です。
形は真人様の握り拳より一回り大きいくらいの楕円形をしています」
「では、何も書かれていないんですか?」


 まあ、年月とともに消え去ってしまっている可能性もあるのだが。

中世期の丸みを帯びた墓を思い起こしながら尋ねると、千代も首を左右に振ってきた。

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オープニング背景画像:ぺるみけさんによる写真ACからの写真