晩春の夜風に薫る記憶は 30
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第三章 夜祭り 3 ≫



「よく見ると文字や絵が刻まれているようにも見えますが、何分古い物なので
それ以上のことはわかりません」


 そうですか、と真人は吐息する。

よほど暗い顔をしていていたのだろうか。

千代が努めて明るい声で大丈夫ですよ、と励ましてくる。


「私が真人様と常に行動をともにしますから」


 千代の言葉に目を剥いた。


「そんなの駄目です! 危ないですよ。俺が巫女になった意味がないじゃないですか!」


 こちらの剣幕に、千代がくすりと袖を口にあてる。


「大丈夫です。私の男装は完璧ですから。真人様だって、私に気づかなかったでしょう?」
「それはまあ、そうですが」


 言葉を濁して俯くと、おもむろに右手へ華奢(きゃしゃ)な白い手が添えられた。


「心配してくださりありがとうございます、真人様」
「あ、いや、はあ」


 そっと両手を重ねながら、千代が真剣な瞳で見つめてくる。

真人は熱くなる頬を見られぬように、明後日の方角を見やった。

初めての感覚に、正直どうしたらいいのかわからない。

高鳴る胸に戸惑いを覚える。

このままこうして二人でいられたら、と心の隅で願う気持ちを、
自覚せずにはいられなかった。

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オープニング背景画像:ぺるみけさんによる写真ACからの写真