晩春の夜風に薫る記憶は 31
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第三章 夜祭り 4 ≫



  二


 陽が暮れると、真人は信二たちに伴われ、
銀色の豪奢な刺繍が施された白い装束に着替えさせられた。

 頭には白いベールを被せられ、白い燕尾服姿をした千代へ引き合わされる。


「あの」


 おずおずと声をかけると、小さく頷いた千代が水晶玉を二つ手渡してきた。


「さあ、始めましょう」


 踵を返す千代に、信二と思われる人物から声がかかる。


「今日は外堀からですかね」
「そうですね、そうしましょう。そのほうが距離も稼げそうだし」


 千代の返答に信二が了承しかけた時、真人は手を挙げた。


「あの、回る順番とかって決まってたりするんですか?」


 ためらいがちに問うと、千代がかぶりを振ってくる。


「いいえ、特には。ただ、一番初めに儀式を行う場所は中央広場にある辻、
その後はやり残しのないよう外側から内側へ向かって執り行うようにはしています」
「そうなんですか」


 それなら自分でも問題なくできるかもしれない。

ほっと胸を撫で下ろしていると、信二が肩を叩いてくる。


「そうですよ。だから今日も外堀から。
あ、でもお嬢さん。崖に向かう旧道のほうは通らないでください」


 信二の言葉に千代が動きを止めた。


「……何かあったんですか?」
「あー、実は昼間言い損ねたんですが、夜中の雨で木が五本ほど折れちまいましてね。
俺たちで縄引いて処理してるんですが、今のところ二本が限界で」


 言いに辛そうに事情を話す信二へ、千代が考え込むように唇へ拳をあてる。


「ということは、かなりの大木だということですね」
「はい。まあ、あそこはあくまで旧道ですし、
石像のある場所へはあの道を通らなくても行けると思いますが」


 罰が悪そうに頭を掻く信二へ千代が問いかけた。


「最終日には間に合いそうですか?」
「はい。崖に着けなくちゃ意味がないですからね。最終儀式までには必ず」
「わかりました」


 力強く頷く信二を前に、千代が首肯する。

それを合図に、一同が姿勢を正した。

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