晩春の夜風に薫る記憶は 32
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第三章 夜祭り 5 ≫



「では、我々は『キヨメ様』のお部屋に向かいます」


 信二ではない別の誰かが千代に礼をして、白い集団の半分を連れて屋敷へ入っていく。

千代が一瞬瞳に迷いの色を浮かべたが、すぐに表情を改め視線を向けてきた。


「さあ、真人様。こちらへ」


 千代に促されるまま彼女の横に立ち、石畳の道を歩く。

後ろに白い集団が続き、聞き慣れたあの音色が夜空へ響き渡った。


 ――シャリンシャリンシャリン……


 村人たちが両手に持つ楽器は、右手が貝の束で左手が水晶の束だという。

それぞれが海と月を表し、神々の婚礼を祝うのだ。


 ――シャリンシャリンシャリン、コロコロコロ……


 今夜の風は生暖かい。白くぼんやりと光る月が、時折流れてくる雲にかき消されてはまた顔を出し、
どことなく落ちつかない夜を演出している。

真人は自分の後ろに続く集団にちらりと視線を送った。

彼らはゆらりと歩みを進めながら、小さく歌を歌い出す。


  しゃなりしゃなりよ
  おしゃなりん
  月と海とが出逢う晩
  集って飾って夜の道
  しゃなりしゃなりよ
  おしゃなりん
  キヨメ様にもわかりゃせぬ……


 やがて、一行は村の中心地にある辻で立ち止まった。

無言で儀式を、と促してくる。

真人も黙って頷き、水晶玉を千代へ預けた。

代わりに受け取った清めの水を、辻に祀られた石像へとかける。

同じく持たされた御幣を像の真下に打ち立て、立ち上がると千代から水晶玉を手渡される。

安堵の息を漏らしていると、横合いから短い悲鳴が上がった。


「『キヨメ様』だ!」


 誰かが叫ぶと同時に、赤い塊が突進してきた。

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オープニング背景画像:ぺるみけさんによる写真ACからの写真