晩春の夜風に薫る記憶は 7
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第一章 五月の風に誘われて 7 ≫



「なんだ、あれ……」


 真人は全身に震えがくるのを自覚した。

それは紛れもなく人間だった。

それも複数の。

白づくめの衣装に身を固め、
輝くばかりの装飾品をこれでもかというほど身につけた、白い集団だ。

 右手には細く撓(しな)る棒にガラスの欠片を括りつけたような物を束で持ち、
左手にはコロコロと鳴る白い玉のような物の棒束を手にしているのがわかる。

顔面を純白のベールで覆い隠した集団は、白い衣服をずるりと地に這わせつつ、
なよなよと歩き近づいてきていた。


 ――シャリンシャリンシャリン、シャリンシャリン、コロコロコロ……


 足が竦んで動かない。

真人は迫りくる集団を前に、かぶりを振って天を仰いだ。


(これは何かの冗談か? いや、それとも……)


 混乱しているうちにも白い集団が眼前までやってきて、ゆっくりと自分を取り囲んでいく。


「なっ、なんなんだよ、あんたたち」


 震える声を抑えて問うが、彼らは始終無言のままじっと見つめてくるだけである。

なんとかして取り囲まれた輪の中から抜け出そうと、力の限りもがいてみる。

が、すべては徒労に終わった。


「いったい俺をどうしたいんだ。おい、何か言えよ」


 焦れて半ばやけくそ気味に叫ぶと、集団のうち一人が進み出て一礼してきた。

これを、と短い言葉を紡ぎ、白いベールを被せてくる。

静かだが有無を言わせぬ冷徹な声に、心が凍りつく。

だがその人物は、動けない自分の右手を取ると、何一つ語ることなく歩き出した。

氷のように冷たい手だ。

我に返り逃げようとするが、びくともしない力で握り締められた。


「なんなんだよ、いったい」


 渇き切って貼りついた喉から、やっとのことで声を絞り出す。

だが、その問いに答える者はない。

真人は為す術もないまま、白い集団とともにその場を後にした。

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オープニング背景画像:ぺるみけさんによる写真ACからの写真