紅いお花はどんな味? 42
たかやんさんさんによる写真ACからの写真

≪ 第四章 想いの行方 7 ≫






 すぐに貴哉を呼び寄せ彼の車に裕紀と被害者の女性を乗せると、御前のところへ向かった。

 田園調布の屋敷へたどり着くと、女性がすぐ離れへと運ばれていく。

裕紀のほうも屋敷で働いている男性たちにより屋敷へと運び込まれ、奥の部屋にいる御前の元に運ばれた。


「大丈夫でしょうか? なんだか息が荒いけど」


 畳みに座した栞は、布団に眠る裕紀の青白い顔を見つめ御前に問いかける。

答えのないまま待つことしばし、場違いなほどのほほんとした声が響いた。


「問題ないな。おそらく香りを吸ってしまったのだろうが。
この花の香りはささやかなのじゃが、どうやら匂いにも催眠作用があるみたいでな。
たちの悪いドラッグのように中毒性と幻聴、幻覚などがあるようじゃ。
なあに、裕紀の場合は口の中に含んではいないからじきに治るじゃろうて」


 明るい声音に勇気づけられ、栞は肩の力を抜く。


「よかった!」


 寝ている裕紀へ笑いかけると、向かいで腕を組んでいた貴哉が苦い口調で語りだした。


「問題なのはもう一人の女のほうだ。あの患者を診る限りでは幻聴がひどいらしい。
男の声が聴こえ『僕は君といつも一緒だ。君を愛している』という声がひっきりなしに聴こえるらしい。
えらく甘い声で抗えないんだそうだ。
しかも時間が経つにつれその声は『僕たちの幸せを望まない人間たちがいる。
佐伯裕紀と高野栞を捜して捕まえよう。彼らから僕たちの幸福を守らなくちゃならない。
彼らを檻へ閉じ込めてしまうんだよ。そうすれば僕たちは一生離ればなれにならずに済むんだから』ってな
声が聴こえてくるらしくてな。
声を聴きたくて花びらを食べれば食べるほど声に抗えず、
筋肉のリミッターが外れ馬鹿みたいな怪力になっちまう。
お蔭で個室が一つお釈迦になったくらいだからな」


 よほどの目にあったのか、貴哉の表情は硬い。栞は頬に手をあてつつ、先刻からの疑問を口にした。


「私たちのことをピンポイントに狙ってくるってことは、
賀美能教授にとって私たちの仕事ことがよっぽど気に入らないってことなのかしら?」

「おいおい。まだ賀美能教授が黒幕と決まったわけじゃないだろう?」


 呆れたような口調の貴哉に対し栞はでも、と反論する。


「レッドパンジーを作ったのは賀美能教授だし。ほかに犯人がいるとは思えないんだけど」

「それなら化学同好会の人間だってあやしいぞ。まだ会いに行ってもいないんだろう?」

「う……」


 貴哉のまっとうな指摘に栞は口籠る。


「それはそうだけど、でも栽培してるのはあの研究室だけみたいだし」


 言い訳を試みるも貴哉が納得してくれる様子はない。しかたなく、栞は話題を変えることにした。

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