紅いお花はどんな味? 44
たかやんさんさんによる写真ACからの写真

≪ 第四章 想いの行方 9 ≫






 景気づけだ、と夕食をごちそうになった後、栞は一人裕紀の眠る部屋にいた。


「行ってくるからね」


 裕紀の頬をそっと撫で踵を返すと、ふいに手を強く握られ目を瞠る。


「え?」


 慌てて振り返ると、裕紀が苦悶の表情を浮かべたまま、

ゆっくりと起きあがろうとしているのが目に入った。


「裕紀!」


 驚いて声を荒らげると、裕紀が真摯な瞳を向けてきた。


「俺も行く」

「裕紀?」


 いつもと違う印象に栞は目を見開く。

話し方が違うことにも戸惑ったが全体から醸しだされる印象そのものが変わっていた。


「俺も行く。連れて行ってくれ」


 必死の形相で訴えてくる裕紀へ栞はかぶりを振る。


「ダメよ! だってあなたまだ心の回復が……」


 強く握ってくる手を離そうと苦心しながら諭すと、裕紀が畳をどんと叩いた。

重い音がして栞は身体をびくつかせる。


「もう彼女から逃げたくないんだ!」

「裕紀……」


 絵里奈を想って懊悩する裕紀を見ていると、胸が苦しい。

栞は裕紀の手に己の手を重ね彼を見つめる。

了承の言葉を告げようとするその瞬間、障子の開く音がした。


「ダメだね」


 入ってきたのは菊野だった。


「菊野おばあちゃん!」


 横に並んできた菊野に驚いていると、裕紀が悲痛な声をあげる。


「菊野さん!」


 だが、裕紀のどんなに切羽詰まった声にも菊野が首を縦に振る気配はない。


「今のままの腑抜けたあなたじゃ足手まといですよ。事件はわたくしたちが解決します。
あなたは事が終わるまでおとなしく寝ておいでなさい」

「俺が腑抜けなのは重々承知している。
おそらく絵里奈だってもう……。だが、俺がなんとかしなくちゃならないんだ」


 両者一歩も引かない状況を前に、栞は裕紀へ重ねたままの手を軽く叩いた。

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