紅いお花はどんな味? 49
たかやんさんさんによる写真ACからの写真

≪  第五章 悲しみの上手な断ち切り方 4 ≫



「お前、スレヴィ・アホカス、だな? 
俺は、お前を追ってこの国へやってきた。俺の両親を殺したお前をこの手で殺すために!」


 人差し指で木崎を示す裕紀に、木崎が手を叩く。


「いいねえ! そうこなくっちゃ!」

「お前、絵里奈に何をしたんだ!」


 怒声を響かせる裕紀を前に木崎が、ああ、と薄ら笑った。


「絵里奈のこと? あの子はいい仕事をしてくれたよ。
僕らは腹違いの兄妹でさ。でもすごく仲良かったんだよ。
だから病気になった時はとにかく悲しくって。
僕は身体の弱い絵里奈のためらななんでもしたいと思ったんだ。
だから、ドナーが見つかるまでこの風使いの能力でたくさんの人を手にかけたよ。
その苦労の甲斐あってやっと見つけたのが君の両親だ。まあ、正確には君のお母さんだけどね。
まあ、とにかく手術も成功して絵里奈は健康になった。
それなのに、ヴィルヘルム。彼女はせっかく掴んだ命を自ら手放してしまったんだ。
ひどい話だろ?」

「ああ……」


 再び肩をすくめる木崎を見て、裕紀が怒りに声を震わせる。


「その時、僕は悟ったのさ。これは妹が弱いからじゃない。
そんなか弱い人間たちが生きにくい世界が悪いんだ、ってね。
だから、僕は世界をより良い方向へ変えるため、密かに実験をはじめたんだよ」


 両手を天へ伸ばし滔々と語る木崎へ対し、
それまでほとんど声を発しなかった菊野が口を開いた。


「それが紅い花を食べさせることなんだね?」

 淡々とした口調で問いかける菊野に木崎が頷く。


「そういうこと。この紅い花はさ、食べるだけで嫌な記憶を忘れることができるし、
小さくて窮屈な器から解放されちゃうんだよ。素敵だろ?」


 紅い花びらの山を指さし楽しげに説明する木崎を、栞は即座に反論した。


「どこがよ! それで絵里奈さんを死霊にして操って! 
ほかの女性たちに対しても嘘八百並べて実験台にしたんでしょうけど、
そんなことまでしていったい何がしたいわけ?」


 怒りにまかせて捲し立て肩で息をしていると、木崎が片眉をあげた。


「言ったはずだよ。力を手に入れて、より良い世界にするためだって。
絵里奈だってそれを望んでいるんだからさ」

「はあ? そんなわけないでしょう! 意味わかんないわよ!」


 栞はわざとらしく鼻で笑う。

嘲りを含んだ視線を投げかけると、木崎の口元が微かに下へ歪んだ。


「しかたないなあ。なら、わかるようにしてあげるよ」


 木崎が宣言すると、とたんに突風が巻き起こり、腕の中の菊野が飛ばされる。


「菊野おばあちゃん!」


 急いで菊野が着ている着物の裾を掴もうとすると、身体がゴムのような風で縛られた。


「きゃっ!」


 栞は影を飛ばす間もなく木崎の腕へ引き寄せられる。


「栞さん!」

「栞!」

「ちょっと! 離しなさいよ! 裕紀! 菊野おばあちゃん!」


 栞は菊野と裕紀の叫びを聞きながら、無理やりカプセル装置の右奥にある扉の中へと引きずられていった。

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