紅いお花はどんな味? 63
たかやんさんさんによる写真ACからの写真

≪  第六章 生ある者がすべきこと 1 ≫






 事件から四日後の夕方。

 今日も裕紀の店でアルバイトに勤しんだ後、栞は二階のキッチンで夕飯を作っていた。


「菊野おばあちゃん、絵里奈さんとはその後どう? 何かトラブルになってない?」


 ジャガイモの皮を剥きながら問うと、菊野が新聞から顔をあげた。


「別に何も。今までと変わりゃしないよ」


 身も蓋もない答えに嘆息していると、裕紀が配達を終えキッチンへとやってくる。


「ただいま帰りました」

「おかえり。店仕舞いはしておいたわよ」

「ありがとうございます」


 声をかけると裕紀がふわりと口元を綻ばせた。

そのまま長いこと見つめてくるので俄かに胸が騒ぎだし、栞は裕紀の瞳から逃れ後ろを向く。


「……何?」


 ぶっきらぼうに尋ねると、背後からごく真面目な声が聞こえてきた。


「ちょっと、話したいことがあるんですが」

「ええっと、じゃあ夕飯の後にでも」


 今はジャガイモを剥くのが先決だ、と暗に告げるも、今日の裕紀はいつもとは違った。


「できれば、今がいいんですが……」

「い、今?」

「はい」


 驚いて振り返ると、柔和な笑顔の奥に一歩も引かない意志の込められているのが見て取れた。


「わ、わかったわよ」


 栞は溜め息を吐きタオルで手を拭く。

背中へ手を回しエスコートしてくる裕紀の断固とした態度を前に、
栞はとうとう逃げ場を失ってしまったことを悟った。

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