邪魂撲滅委員会 7
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≪ 第二章 魂護衛課第五班(たまごかけごはん) 4 ≫



 始めは煙が効いていたこと。しかし、それが“悔い”という単語を言ったとたん薄れたこと。

そしてその言葉をきっかけに、彼女が正気に戻ったように見えたこと。

神はすべてを話し終え、クレアと福留の顔を交互に見た。


「それじゃ、やっぱりわたしの計算が間違ってたってこと?」


 先ほどとは打って変わり、ためらいがちにクレアが口を開いてくる。だが、すぐに福留の擁護が入った。


「いや、そうとも限らん。現に、クレアちゃんが計算した座標に奴(やっこ)さんは現れた。

と、すると最後は言葉か……。だが、そんなことあるのか?」

「ありますよ」


 重たい空気に包まれている中、あっけらかんとした声が聞こえてきた。まだあどけない子供の声だ。

大人じみていて可愛げのない口調は、さらに続く。


「まれに、煙の効力がちゃんと効いているにも関わらず効力が薄れてしまわれる方がいらっしゃいます」


 衝立の向こう側から現れたのは、リオンだった。

 白い半袖シャツにダークグレーのネクタイ。ねずみ色の半ズボンからは、白い靴下を履いているにも関わらず、

折れてしまいそうなほど細い足が出ている。

 天上人の彼は六歳くらいの子供にしか見えないが、正真正銘、自分たちの上司である。

だが幼い見た目に加え、この部署では新人の部類に入るのもあって、神は彼が上司だという認識を持っていなかった。


「どういうことだ、リオン?」


 神は近づいてきたリオンへと視線を向ける。その様子をクレアと福留も、固唾を飲んで見ていた。


「ですから、今回の芹沢葉子さんという方は生前とても“悔い”ていたということですよ」

「じゃぁ、何か。オレが言った“悔い”ってのが引き金になったってことか?」

「そうですね」


 あっさりうなずくリオンに、神は二の句が告げず口の開閉を繰り返す。

静まり返った室内の静寂さを破ったのは、クレアのドスの効いた声だった。


「おいこら、天守神。何か言うことはないか? あーん?」


 神は、鋭い睨みを利かせながらソファから立ちあがるクレアにひるんだ。

 あれだけのことを言ったのだ。クレアが本気で怒るのも仕方のないことだろう。背中に嫌な汗が流れるのを感じた。


「あは、クレアちゃん。可愛い顔が台無しだよー?」


「ふざけるなー!」


 神は手を振りあげ殴ろうとしてくるクレアを寸でのところでよける。

即座にソファから腰をあげて彼女と距離を置くが、クレアが憤怒の形相で追ってきた。

 捕まったらただではすまない。容易に想像できる結末から逃れるべく、神は衝立の向こう側へ走り出した。

 向かい合う形で置かれている机を盾に逃げているが、いよいよクレアに追い詰められそうになったときだ。

誰かの手を叩く音が室内に響いた。

「天守さんもクレアさんもじゃれるのは終わりにしてください」


 リオンの声に気をとられていると、瞬間何かが落ちたような鈍い音がして、右足に衝撃が走った。

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