晩春の夜風に薫る記憶は 33
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第三章 夜祭り 6 ≫



「うわ!」


 真人は『キヨメ』の攻撃を間一髪で避け、後ろへ飛びすさる。

千代の姿を捜すと、後ろから手を引かれた。


「こっちです!」


 千代が余裕のない表情で手を掴み、そのまま走り出す。


「ついて来てください。私たちだけで儀式を続行します」
「わかりました」


 真人は頷き、次の目的地へと向かう千代の後を追った。

背後を振り返ると、赤い襦袢姿の『キヨメ』が気づき、
包丁を片手に走り寄ってきているのが見える。

 このままでは二人とも危険だ。

 真人は唇を湿した後、千代に向かって問いかけた。


「このままだと危険です。どこか一時的にでも隠れる場所はありませんか?」
「一つだけあります。でも、予定通りに儀式を執り行わなければ、
真から危機を回避したことにはならないんです。だから……」


 言葉を詰まらせる千代へ走り寄り、真人は微笑む。


「大丈夫。儀式の方法は粗方覚えましたし、必ず俺がやり遂げてみせますから。
外側から内側へ、でしょう? 順序は清めの水をかけた後に御幣を立てる。
これで合ってますか?」
「ええ」
「じゃあ、とにかく今は、その場所へ案内してください」


 言い切ると、シルクハットから覗く千代の瞳が仄かに揺らめいた。


「わかりました。ご案内します。
旧道を避けて林を抜けますから、くれぐれも私から離れないでくださいね」


 帽子のつばに手をやり表情を隠しながら、ありがとうございます、と千代が囁く。

いえ、と首を左右に振ると、千代が口許を僅かに和ませる。

そのまま何も言わず、路地裏へと促された。

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オープニング背景画像:ぺるみけさんによる写真ACからの写真