晩春の夜風に薫る記憶は 45
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第四章 運命(さだめ)よりも 1 ≫






 夜が明けた。

 結局、真人はあれから一人で残り三ヶ所の儀式を執り行い、何食わぬ顔で洞穴へと戻った。

赤い目をして見上げてきた千代には、余裕のある素振りで微笑んでみせたのだが。


「あー……」


 真人は何もする気が起きぬまま、部屋からぼうっと庭を眺めやった。

昨夜聞いてしまった自分が生贄だという真実はそれなりにショックだったが。

それよりも失恋した事実のほうが辛かった。

涙が出るほどではないけれど、時折胸に走る鋭い痛みが苦しくてたまらない。


「しんどいなあ」


 真人は両手を上に大きく伸びをして、ごろりと畳へ寝転ぶ。

天井の木目を見つめながら、これから先のことを考えた。

このままでは、自分は早晩『キヨメ』に殺されてしまうだろう。

だからと言って、ただ単に逃げ出すというのも気が咎める。

このままおめおめと殺されてしまう気も毛頭ない。

どうにかして自分の身も守り、
なおかつ千代の母親も助ける方法はないのだろうか。


「どうしたもんかなあ」


 左腕にはめられた虹色に輝く腕輪を翳して呟くと、
ふいに庭から馴染み深いしわがれ声が聞こえてきた。

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オープニング背景画像:ぺるみけさんによる写真ACからの写真