晩春の夜風に薫る記憶は 61
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第四章 運命(さだめ)よりも 17 ≫



 舌を打ち、憎しみのこもった瞳で睨みつけてくる。


「侮辱するのも大概にしてほしいもんですね。
巫女様でさえなければぶち殺してやりたいくらいだ」


 食い縛った歯の隙間から漏らされる信二の言葉に、真人は吐息する。


「俺は死にませんし、
千代さんも殺させません。『キヨメ様』も必ず元に戻してみせます」


 約束する、と目で訴えるも、信二の瞳が怒りに燃える。

軋むほど太い木枠の格子を鷲掴んでくる信二を、
真人は冷静な心持ちで見守った。

 たとえ傷つけられても構わない。

俺は曲げない。

三白眼を崩さない信二を強い瞳で見返すと、すんでのところで吉隆の声が飛んできた。


「戯言ばかり言うのはそろそろやめていただけますかな、真人殿」


 静かな殺気を孕んだ吉隆の言葉に、信二が握り締めた格子を離す。

真人は吉隆へ視線を移し、その双眸を見据えた。


「戯言かどうかは試してみればわかります」


 目を細める吉隆に向かい、早鐘のように打ちつける心臓を抑える。

極力冷静さを装い、言葉を紡いだ。


「もし失敗して千代さんの身に危険が及ぶことがあれば、
必ず俺が盾になると誓いますよ。だからお願いです。
今日の儀式は一人で廻らせてください」


 再び沈黙が支配した。これだけ言って駄目なのなら、もう打つ手がない。

背中に嫌な汗を掻きながら答えを待つ。

瞼を閉じ黙考していたらしい吉隆が、重い口を開いた。

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