晩春の夜風に薫る記憶は 71
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第五章 石の謎 4 ≫



(この光は上からか? いや、奥からも直線上に入り込んできている?)


 真人は千代を連れて社の裏側へ回り、洞穴状の祠を覗き込んだ。

大人三人がぎりぎり入れるかと思われる暗い穴の奥に、何かが見える。


「あの奥にあるのはなんですか?」
「あ、はい。台座が一つ。何に使うのかはわからないんですが」


 真人は洞穴の奥へと入り、スマートフォンで祠を照らし出す。

そこにあったのは、六つの足と、ミニチュアの木のように四つの枝を持った台座だった。

質素ではあるが黒い漆で丁寧に塗られた細工を見て、
真人はこれらがあることに気づかなかった理由(わけ)を知った。


(何を置いていたのだろう?)


 真人は台座を写真に収めようとして、やめておくことにする。

写真を撮ってしまったら、なんとなくこの台座を穢してしまう気がしたのだ。

真人はスマートフォンを尻ポケットにしまい込み、千代のところへと戻った。


「何か、おわかりになりましたか?」


 不安げに眉根を寄せて尋ねてくる千代に、真人は、はい、と微笑んでみせる。

「まだはっきりとは言えませんが、少しは見えてきたかなって」


 頷いてみせると、千代が少しだけ安堵したように肩の力を抜いた。


「よかった」


 千代が呟く。

真人は黄色い着物に身を包んだ千夜の背中へ手を伸ばしかけ、思い留まった。


「あとは時間ぎりぎりまで、屋敷にある史料とにらめっこするまでです」


 やり場のなくなった手をシャツに擦りつけることで誤魔化す。


「真人様?」


 首をかしげてくる千代の顔を見ずに、一際大きな声を上げた。


「さあ、行きましょうか」


 真人は恥ずかしさに上昇する熱を霧散させようと、そのまま早足で歩き出す。

なんだか色々情けなさすぎて、今は合わす顔がない。

ずんずんと前を歩きながら、真人は己の足音に微かな足音が重なるのを耳で確認し、
こっそりと溜め息を吐いた。

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オープニング背景画像:ぺるみけさんによる写真ACからの写真