晩春の夜風に薫る記憶は 79
キイロイトリさんによる写真ACからの写真

≪ 第五章 石の謎 12 ≫






 屋敷の外では西陽がその輝きを増していた。

 もうすぐ夕方が近いのだろう。急がなければ時間がない。

 真人は信二と二人で海岸沿いの道を走る。

目指す石碑は、あの封鎖されていた崖へ続く旧道の坂道から、

さらに上へ行く小径の木陰にあった。


「これじゃあ気づかないはずだ」


 何しろこの前までは塞がれていた道の先だ。

真人は苦笑しながら、千代から借りたやかんを地面に置く。

石碑は、水晶のように細長い多面体だった。


「塞がれていたからわからなかったんですよ。石像は全部で十六個じゃなくて十八個あったんだ」


 しゃがみ込みながら説明すると、信二が首を捻る。


「石像? 石碑じゃないんですかい?
それに、これは道祖神ではなくただの目印だって小さい頃から言われてきたものですよ?
だから村でも今まで誰一人として儀式を行ったことはありませんし。
そもそも十八個って……」
「いや、貴方がたの言う通り、これは目印なんです。
『この先にある場所が儀式に必要不可欠な場所である』というね」


 簡単に説明してみせると、信二が釈然としない様子で応えてくる。


「はあ。けど、これ十七個目ですよね? それじゃあ、十八個目はどこにあるんです?」
「それを今から調べるんですよ」


 信二の問いに答えながら片栗粉を丁寧にまぶす。

先刻と同じようにスマートフォンで写真を撮り、石碑、もとい石像をじっくりと観察した。

そこには、儀式を行う崖と数本の木に加え、
社を示す鳥居とその裏にある洞穴が描かれていた。

さらにその三つが三角形で結ばれ、線が崖の点から上に描かれた円へと伸びている。

円はおそらく月だろう。

 真人は立ち上がり、腕を組んだ。

 崖、社、洞穴状の祠。この三つを結ぶものはなんだろう。

考え込んでいると横合いから声がかかった。


「水、かけちゃっていいですかね?」


 尋ねてくる信二に頷きかけ、ちょっと待った、と慌てて今一度石像を見つめる。

後から調べればいいとおざなりに見ていた文字を、
曖昧な己の知識に舌打ちしながら解読していった。

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オープニング背景画像:ぺるみけさんによる写真ACからの写真