夕立 20
K-systemさんによる写真ACからの写真

  六



「あの、すみません」


 わたしは濡れた服をハンカチで拭きながら声をかける。


「あの、桐野調査事務所の者ですが。どなたかいらっしゃるんですよね?」


 近頃の家庭はどこもきちんと鍵を掛けるのが常識だ。

それに、扉は内側から開いたのである。

いくら強風が吹いているからといって、
これぐらいの風で開いてしまうような玄関が今の世の中にあるはずもない。

ふと脳裏に「幽霊」の二文字が浮かび、わたしは生唾を飲み込んだ。

及び腰になる気持ちを奮い立たせ、もう一度声をかける。


「すみません、どなたかいらっしゃいませんか? 
桐野調査事務所の者です。ご依頼された件の報告書をお届けに参りました」


 薄暗がりに沈んだ廊下の奥、
左側にあったリビングと思しき扉がほんの少しだけ開き、
微かではあるが返答があった。

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