夕立 22
K-systemさんによる写真ACからの写真

  六



 今まで仕事中にこんな思いをしたことなど一度としてなかったはずなのに。

間の抜けた対応ばかりしてしまってはいけない。

わたしは気を引き締め、リビングの扉に手をかけた。

中からはカタカタとせわしげな音が聞こえてきている。


 しばし、中へ入るのを躊躇した。

すると間もなく、扉の隙間から明るい光が差し込んできた。

なんとはなしにほっとして、扉を全開にする。

中には小さなテーブルと革張りの椅子が二席、
窓際とその向いに一席ずつ用意されている。

テーブルの上には大きなろうそくが一本灯っているのが目に入った。

 わたしは手前の座席に近づいた。

そこには中身を入れたばかりと見られるティーカップが、湯気を立てていた。

窓際の席は、
テーブルを背にしてすでに余人が座っているように見受けられる。

おそらく、座っているのが依頼主だろう。

わたしは窓辺を眺めているらしい依頼主へ、改めて挨拶を述べた。


「初めまして。
わたくしは桐野調査事務所から参りました、増岡紗智子と申します」


 依頼主が少しだけ椅子を向け、会釈を返してきた。


「こちらこそ、初めまして。来て早々お騒がせして申し訳ありませんでした」


 どうぞお掛けください、と依頼主が促してくる。

その声はやはり心持ち高く、女性か子供のように感じられた。

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オープニング背景画像: K-factoryさんによる写真ACからの写真