夕立 26
K-systemさんによる写真ACからの写真

  六



 わたしはひたすら彼の答えを待つ。

やがて、優が小さく吐息した。いいでしょう、と優が答えた。

答えながら椅子を向けてくる。

振り返った優の姿を見て、
わたしは喉元を締め付けられたかのような衝撃を受けた。

彼は、間違いなく大谷優本人だった。

しかし……。


 膝の震えが止まらない。

あり得ない光景が目前に現れ、わたしは二の句が告げなくなった。

だが、当の彼はわたしのことなど意に返した様子もない。


「どこからお話ししましょうか」


 あまり昔のことなので上手く話せるかどうかわかりませんが、
と優が微笑(わら)った。

彼の面に身震いする。

優が穏やかな笑みを浮かべたまま、おもむろに口を開いた。


「一九八三年五月七日。
僕の知っている人達は僕の周りからいなくなりました。
それはあまりにも一瞬の出来事で、
最初は何が起こったのか、まったく分かりませんでした。本当に。
突然のことだったんです」


 雨脚はさらに酷くなり、
細長い木枠の窓へ叩きつけるように降り注いできていた。

一つ前を読む   小説の部屋に戻る   次を読む





オープニング背景画像: K-factoryさんによる写真ACからの写真