夕立 28
K-systemさんによる写真ACからの写真

  七



 優は酷く満ち足りた気分になった、とわたしに語った。


「確かに父は僕にとても素晴らしいものを与えてくれましたよ。
分厚い百科事典を十冊以上も。それはチャチなロボットのおもちゃよりも、
もっと素晴らしいものでした。
父には本当に、感謝してもしきれないほどです。
嬉しくてうれしくて、僕は泣きました」


 優は相変わらず静かな微笑みを湛え、お茶のおかわりを勧めてきた。


「ありがとう、いただきます」


 おそらく手は震えていたに違いない。

彼はわたしの反応に気づいていたのか、いなかったのか。

優はそのことに一切触れてこなかった。

柔らかな微笑みと共に淡々と、優の話は続いた。


「僕の母は、それはそれは綺麗な人でした。
もちろん頭も良かったけれど、
いつもとても綺麗な人でしたし、何より清潔な人でした……」


 雨風に曝され横なぎに揺れる木々の黒い陰が、
彼の背後で激しく右へ左へと撓(たわ)んでいるのが見える。

雲の合間からわだかまるように忙しく点滅する微かな稲光が、
彼の青白い顔をより一層白くした。

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