夕立 29
K-systemさんによる写真ACからの写真

  七



 同年同日の正午のことだ、と優は口を開く。


「優、優ちゃん!」
「あ、ママ」
 優は父の手を離して駆け寄り、
母のエプロンを掴もうと手を伸ばしたのだそうだ。

だが……。


「触らないでっ!」


 母の紀子(のりこ)がけたたましい金切り声を上げて
わが子の手を勢いよく弾いた。

彼女の手には医者が施術用に使うかのような透明な薄いゴム手袋がはめられていた。


「そんな汚らわしい手で私に近寄らないで、優!」
「ママ……」
「来ないでっ!」
「優。ママに謝りなさい」


 父は淡々とした口調で優に促した。

優はその瞳いっぱいに涙を浮かべて、とぎれとぎれに詫びた。

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