夕立 30
K-systemさんによる写真ACからの写真

  七



「ご…めんなさ……い……ママ……」


 紀子は泣きじゃくる優を見て顔を顰めつつ、
先刻からしているゴム手袋を外し細心の注意を払って
ビニール袋に入れた。


 尚且つ、袋を二重三重にし、地面へと落とし指示してきたのだという。


「持ちなさい、優」


 優が困惑して父を見上げると、父が無言で頷いた。


「はい、ママ」


 優は地面に落とされた袋を持ち、母を見つめる。

母は自分の手を消毒することに必死で、
そんな優の視線にも気づくことはなかったのだ、と優は目を細めた。


「彼女は僕の理想なんです。……あの日も、とても綺麗でしたよ」


 あなたもとても綺麗な人だ、と優が口角を上げる。

わたしは何も言うことができず、手元に置かれたティーカップを見つめた。

カップに残る透き通った赤茶色の液体に映る己の顔面を、
ただ見据えることしかできなかった。

優が、さて、と口調を改める。


 風雨は未だ激しく、雲にわだかまる光は徐々にその鋭さを増した。

地を這うような雷鳴も、少しずつその間隔を狭めつつあった。


「次は真理(まり)ちゃんのことをお話ししましょう。
真理ちゃん、というのは僕のガールフレンドだったんです。
彼女と僕は一番仲が良くて、いつも周りから冷やかされていましたよ」

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