夕立 32
K-systemさんによる写真ACからの写真

  七



「僕は、真理ちゃんのことが好きだったんですよ。本当に、大好きでした」


 優が夢見るような口調で答える。面には苦悶の色など一切見えなかった。

だが、そんな優の態度がどれほど空虚なものであるかを、
わたしは痛いほど理解していた。


「真理、真理!」


 幸い真理は軽い脳震盪を起こしただけだった、と優が肩を竦めた。

気がつくなり母親の胸にしがみつき、火がついたように泣き出したのだ、と。


「あんたのせいで!」


 真理の母親は優を執拗に責めた。

口で罵り、手で頬を叩いた。


「あんたのせいで私は!」


 同じ言葉を繰り返しては叩く。

優には彼女がなぜ怒っているのかが分からなかったが、
抵抗しようとは思わなかったのだそうだ。

だから真理が彼女の母親の後ろで舌を出しているのを見ても、黙って耐えた。

彼女の怒りが止むまで、ただひたすらに。

その場にいたはずの彼の両親たちも、誰一人、止めに入ろうとはしなかったのだ。

そう語る優の声はやはり淡々としていた。

一つ前を読む   小説の部屋に戻る   次を読む





オープニング背景画像: K-factoryさんによる写真ACからの写真