夕立 4
K-systemさんによる写真ACからの写真

  二



「生きているのが辛い」


 そんなことをこれほどまでに思ったのは、後にも先にもこの時が初めてだった。

それまでの人生は、上々とまではいかなくともそれなりに平穏で、
充実した日々を送っていたからだ。

ごく普通の大学に通い、卒業し、当時開いたばかりだった叔父の探偵事務所へ就職。

そこで知り合った幸村友彦(ゆきむらともひこ)と恋に落ちた。

特別とは言えないまでも平穏で幸せな毎日。

続くものと信じていた幸福が壊されたのは、結婚式の当日だった。

 友彦はわたしを裏切った。

何も告げず、何の前触れもなく、死出の道へと旅立っていった。

友彦がなぜ突然死を選んだのか。

それは誰にも分からない。

知りたいとも思わない。

彼は遺書を残さなかったし、何より胸中にあったのは、
一人取り残されたという、怒りとも悲しみともつかぬ苦しみだけだったのだから。

わたしは友彦に置いていかれたのだ。

彼と共にあることを拒絶されたのだ。

そう思う度に、胸が捩れるような痛みに囚われた。


「消えてしまいたい」


 この世から消え去り、少しでも早く友彦の元へ行きたいと本気で願った。

いつ、どこで、どのように死ぬか。

仕事にも行かず部屋に篭り、それだけを思い続けていた。

一つ前を読む   小説の部屋に戻る   次を読む





オープニング背景画像: K-factoryさんによる写真ACからの写真